【実録】「保育園には適用されない」の嘘。就業規則を勝手に変えるブラック経営者と御用社労士の末路

「一般的な会社の制度だから、うちの保育園には適用されないんだよ」

もし、あなたの会社の社長や理事長が、労働法のルールについてこんな言い訳をしてきたら、どうしますか? これは作り話ではありません。つい最近、とある保育現場で実際に起きた、経営者と顧問社労士による「姑息な隠蔽工作」のワンシーンです。

2025年10月1日施行の改正育児・介護休業法により、企業には「柔軟な働き方を実現するための措置」が義務付けられました。しかし、このルールを巡って、現場の意向を完全に無視した違法スレスレの「独裁的な決定」が水面下で横行しています。

今回は、元・税金Gメンとして社会保険労務士有資格者の視点から、経営者が勝手に就業規則を変えることの法的リスクと、「正しい制度の決め方」を徹底的に解説します。


目次

1.事件の構図:理事長と顧問社労士の「密室の決定」

問題の保育園では、育児休業法の改正に合わせて「柔軟な働き方を実現するための措置」を導入する必要がありました。

法律では、以下の中から「2つ以上」の制度を選び、労働者が利用できるようにすることが義務付けられています。

  1. 始業・終業時刻の変更(時差出勤)
  2. テレワーク
  3. 短時間勤務制度(時短勤務)
  4. 所定外労働の制限(残業免除)
  5. 新たな休暇の付与(養育両立支援休暇)

この保育園の理事長と顧問社労士は、密室で「時差出勤(たった15分)」と「時短勤務」の2つを選択し、現場の保育士たちに一切の周知も意向確認も行わないまま、勝手に就業規則を書き換えて労働基準監督署に届け出たのです。

後日、この制度を知り、うちの職場ではどの制度が利用できるのかをまだ保育園に通う子供を持つベテラン保育士が理事長に問いただしたところ、返ってきたのが冒頭の言葉でした。

「あれは一般企業の制度だから、保育園には関係ない。適用されないんだよ。」

結論から言います。これは100%、真っ黒な嘘です。 育児・介護休業法は、株式会社であろうと、社会福祉法人であろうと、NPOであろうと、人を雇うすべての事業主に適用されます。「保育園だからやらなくていい」などという特例は、日本国の法律のどこを探しても存在しません。


2.勝手に決めるのは違法?「正しい決め方」の絶対ルール

なぜ理事長は、現場に隠れてコソコソと手続きを進めたのでしょうか。それは、現場の意見を聞けば「15分の時差出勤なんて意味がない」「もっと使える制度にしてほしい」と反発されるのが目に見えていたからです。

しかし、法律はこのような「密室の決定」を許していません。「柔軟な働き方を実現するための措置」を導入する際の、法的に正しいフロー(義務)は以下の通りです。

ステップ①:労働者代表からの「意見聴取」(労基法90条)

就業規則を変更して新たな制度を追加する場合、会社は勝手にルールを書き換えることはできません。必ず、従業員の過半数を代表する者(または過半数労働組合)から「意見を聴く義務」があります。 これを無視して勝手に作成・変更した就業規則を提出することは、労働基準法違反です。

ステップ②:労働者への「周知」(労基法106条)

就業規則を変更したら、それを従業員が見やすい場所に掲示する、あるいはデータで共有するなどして「周知」しなければなりません。引き出しの奥に隠しておいて「ルールは変えた」と主張しても、法的な効力は発生しません。
未周知の就業規則は原則無効です。

ステップ③:対象者への「個別周知・意向確認」(育介法)

これが今回の法改正の最大の肝です。制度を作って終わりではありません。単に制度をつくるだけでなく、3歳から小学校就学前の子を養育する従業員に対して、子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間(1歳11か月~2歳11か月の間)に、個別に制度説明と制度利用の意向確認と、仕事と育児の両立(今困っていることはないか)に関して、ヒアリングしなければなりません。

この保育園は、ステップ①を偽装し、ステップ②と③を完全に放棄しました。法律の趣旨を根本から踏みにじる、極めて悪質な行為です。


3.法を舐めた経営者と社労士に下される「罰則」

では、このような隠蔽工作を行った経営者には、どのような罰則が待っているのでしょうか。

① 労働基準法違反による「罰金」と「指導」

労働者代表の意見聴取(労基法90条)や、周知義務(労基法106条)を怠った場合、30万円以下の罰金が科される可能性があります。 実際には、いきなり逮捕・罰金となる前に行政指導が入りますが、もし「従業員の代表者のサインを経営者が勝手に偽造して労基署に提出していた」などの私文書偽造が発覚すれば、事態は刑事事件へと発展します。

② 育児・介護休業法違反による「企業名公表」

個別周知・意向確認の義務を怠った場合、都道府県労働局(雇用環境・均等部)から指導・勧告を受けます。それに従わない悪質なケースは、「法律を守らないブラック企業」として企業名が公表されます。 人手不足が深刻な保育業界において、企業名が公表されることは、新たな人材採用が完全にストップすることを意味する「死刑宣告」に等しい措置です。

③ 「御用社労士」の責任

経営者の無知につけ込み、あるいは経営者に迎合して「バレなきゃいいんですよ」と違法な手続きに加担した顧問社労士。彼らも無傷では済みません。社会保険労務士法には、不正行為の指示等を禁止する規定があり、悪質な場合は懲戒処分(業務停止や失格処分)の対象となります。 労働者を守るべき社労士が、経営者の保身のための「隠れ蓑」になるなど、同業者として到底許せるものではありません。


4.現場を守るために、労働者が取るべき「反撃」

もし、あなたの職場で同じような「密室の就業規則改定」が行われていた場合、泣き寝入りする必要はありません。元徴収官として、確実な反撃のステップをお伝えします。

1. 証拠を残す
「適用されない」といった理事長の発言や、周知されていない事実を、メモや録音、メールの履歴などで記録してください。役所が動くための最強の武器は「客観的な証拠」です。

2. 労働基準監督署・労働局へ通報する
就業規則の意見聴取が行われていない件は「労働基準監督署」へ。 柔軟な働き方の個別周知がされていない件は、労働局の「雇用環境・均等部」へ申告します。 「誰が労働者代表としてサインしたことになっているのか、開示してほしい」と労基署に求めることで、不正が白日の下に晒されることもあります。


まとめ|正しいルールの運用こそが、会社と従業員を守る

「人手が足りない」「現場が回らなくなる」 経営者のその悩みは理解できます。しかし、だからといって法律を無視し、現場で身を粉にして働いている従業員を騙していい理由には1ミリもなりません。

特に保育や介護といった、個人の高いモラルと献身に支えられている業界において、経営者が従業員に嘘をつくことは、組織の根幹を腐らせます。

社会保険労務士オフィス LIFE ONE は、経営者に媚びて違法行為を助長するようなコンサルティングは一切行いません。元徴収官の冷徹な目で法令遵守を徹底し、その上で、会社も従業員も納得して働ける「真に強い組織のルール」を構築します。

「うちの会社の就業規則、本当にこのままで大丈夫か?」 「法律違反の時限爆弾を抱えていないか?」

少しでも不安を感じた経営者の方は、手遅れになる前に、当オフィスのコンプライアンス診断をご利用ください。

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