現在、厚生労働省(労働条件分科会)を中心として、約40年ぶりとなる労働基準法の大改正(抜本的見直し)に向けた議論が精力的に進められています。
今回の改正議論は、単なる細かいルールの変更ではありません。昭和の時代に作られた労働基準法の根本思想を、リモートワークや副業・兼業といった「多様な働き方」に合わせ、時代に即した形で一新しようとする歴史的なアップデートです。
企業経営者や人事労務担当者、そして働く当事者にとって、「今後の実務がどう変わるのか」「自社は何を準備すべきなのか」は非常に大きな関心事ではないでしょうか。
そこで本シリーズでは、今後予定されている労働基準法の重要改正点を、ひとつずつ丁寧に・詳細に解説していきます!
記念すべき第1弾のテーマは、企業・働く人の双方から最も関心が高く、実務上の激変が予想される「副業・兼業者における割増賃金(残業代)通算ルールの見直し・廃止」です。
1. そもそも現行の「副業・残業代通算ルール」とは?(現状の課題)
現行の労働基準法第38条第1項には、以下のように定められています。
労働基準法第38条第1項
労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定を適用する。
つまり、「A社(本業)とB社(副業)で働いた時間は、すべて合算(通算)して計算する」というのが現行法の絶対ルールです。
😱 企業を悩ませていた「割増賃金(残業代)」の発生メカニズム
例えば、ある社員が以下のように働いたとします。
- 本業(A社): 月〜金曜日(1日8時間/週40時間)
- 副業(B社): 土曜日(1日5時間)
この場合、法定労働時間(週40時間)を超えた土曜日の5時間分は、「後から労働契約を結んだ企業(=副業先のB社)」が25%以上の割増賃金(残業代)を支払わなければならないという仕組みになっています。
さらに厄介なのは、「どちらが後から契約したか」や「その日どちらで先に働いたか」によって、本来は残業をさせていないはずの本業(A社)側に割増賃金が発生してしまうケースもありました。
❌ 現行ルールが招いていた悲劇
- 自己申告の把握が不可能なレベル:
副業先で「何時間働いたか」を毎月リアルタイムで正確に把握・計算するのは、実務上ほぼ不可能です。 - 割増賃金の不公平感:
「自社では定時で上がらせているのに、副業先で働いた分の残業代まで自社が負担させられるリスク」を恐れ、結局多くの企業が「トラブル回避のために副業禁止」を選択せざるを得ない状況でした。
2. 法改正でどう変わる?「通算ルール廃止」のポイント
今回の労基法改正議論では、この「実務に全くそぐわない割増賃金の通算ルール」を撤廃・見直しする方向性が示されています。
具体的な改正ポイントは以下の2点です。
ポイント①:割増賃金(残業代)の通算は「廃止」!自社での労働時間のみで判定
法改正後は、各企業は「自社の中で働かせた時間」だけを見て残業代を計算すればよくなります。
- 本業(A社): 自社で1日8時間・週40時間以内なら、残業代は発生しない
- 副業(B社): 自社で1日5時間なら、残業代は発生しない
副業先で何時間働いていようが、自社の法定労働時間枠内で収まっている限り、他社での労働時間を理由に残業代(割増賃金)が発生することはなくなります。
これにより、企業の給与計算事務の手間や、理不尽な割増賃金負担のリスクが激減します。
ポイント②:過労を防ぐための「健康確保(時間把握)」は引き続き必要!
「割増賃金の通算がなくなるなら、他社でいくら働かせても関係ないの?」というと、そうではありません。
割増賃金の計算は自社単独で行うようになりますが、「労働者の過労死を防ぐための健康管理(過重労働防止)」に関する時間把握は、引き続き通算して管理することが求められます。
- 残業代の計算: 通算しない(自社のみで判定)
- 健康管理(医師の面接指導やシフト配慮): 通算して把握する(合算で月80時間超の過労にならないかチェック)
つまり、「お金(残業代)の計算」と「命(健康)の管理」を切り離して運用する形にシフトするということです。
3. 企業が今から準備しておくべき「実務アクション」
「通算ルールが廃止されるなら、うちは副業解禁に舵を切ろう!」と考える企業も増えるはずです。ただし、法改正に合わせた社内体制のアップデートをしておかないと、別の労務トラブルを呼び込むことになります。
今から準備しておくべき実務対応は以下の3つです。
① 就業規則・副業許可申請書の改定
既存の「副業・兼業規程」がある場合、労働時間の自己申告フォーマットや許可基準の見直しが必要です。「残業代の計算方法」と「健康状態の把握手順」を切り分けた規定にアップデートしておきましょう。
② 自社での「時間外労働(残業)」の事前管理
他社との通算による残業代は発生しなくなりますが、自社内での残業時間がかさめば当然残業代が発生します。 副業を行っている社員については、本業側で無理な残業をさせないシフト管理(自己申告制の導入など)が引き続き重要です。
③ 労災(業務上の事故)リスクの確認
すでに労災保険法上は「副業・兼業先での労働時間を合算して労災認定(脳・心臓疾患等)を行う」仕組みになっています。労災補償については合算で判断されるため、やはり「過重労働になっていないか」の定期的なヒアリングは不可欠です。
まとめ:副業解禁の「最大の壁」が崩れる!早めの準備で優秀な人材を惹きつけよう
今回の副業・兼業における割増賃金通算ルールの見直しは、「副業を解禁したくても、給与計算と残業代リスクが怖くてできなかった企業」にとって最大の追い風となります。
- 割増賃金(残業代)は「自社での時間」だけで計算すればOKになる
- 他社での労働時間を合算して残業代を払う必要がなくなる
- ただし、過労防止のための「健康管理」としての時間把握は引き続き重要
制度が正式に施行された際、スムーズに「副業解禁」や「優秀な副業人材の受け入れ」へ舵を切れる会社こそが、これからの採用・人材定着レースで頭一つ抜け出すことができます。
次回の記事(第2弾)では、飲食店やサロンなどの小規模事業場を揺るがす「週44時間特例措置の全面廃止」について徹底解説していきますので、ぜひ楽しみにしていてください!
💡 自社の就業規則改定や副業規程の作成でお悩みですか?
「副業規程をどう書き直せばいいかわからない…」
「自社のシフト管理や勤怠システムでどう対応すべきかアドバイスがほしい」
当事務所(LIFE ONE HR)では、最新の労働基準法改正に対応した就業規則の作成・改定から、副業運用の実務フロー構築まで幅広くサポートを行っております。
まずはお気軽に「スポット相談」からご相談くださいね!

コメント