現在、厚生労働省(労働条件分科会など)を中心として議論が進められている、約40年ぶりとなる労働基準法の大改正。
第1弾の「副業の残業代通算ルール廃止」、第2弾の「週44時間特例の全面廃止」に続くシリーズ第3弾のテーマは、あらゆる業種・規模の企業に直撃する「勤務間インターバル制度の義務化・強化」です。
「深夜23時まで残業させた翌朝、9時の始業に遅刻せず来させたら法違反!?」
「インターバルを取らせて翌朝遅れて出社させた場合、その分の給料は引いていいの?」
このような疑問を持つ経営者や人事担当者様も多いのではないでしょうか。
自動車運転手や医師など一部職種では先行して義務化・規制強化が進んでいますが、いよいよ一般企業全体へも原則義務化(原則11時間の休息確保など)に向けた舵が切られようとしています。
今回は、勤務間インターバル制度の基本構造から、法改正の最新動向、そして就業規則にどう書き込んで運用すべきかという超実践的なポイントまで、社会保険労務士の視点から分かりやすく解説します!
1. そもそも「勤務間インターバル制度」とは?
勤務間インターバル制度とは、「1日の勤務終了時刻から、次の勤務開始時刻までに、一定時間以上の継続した休息時間(インターバル)を確保する仕組み」のことです。
EU(欧州連合)加盟国では加盟国指令により「24時間につき最低連続11時間」の休息を与えることが以前から義務付けられており、これにならったものとなっています。
📌 現在のルール(現状の課題)
現行法(労働時間等設定改善法)において、勤務間インターバル制度は「企業の努力義務」にとどまっています。
そのため、「言葉は知っているけれど、実際の運用ルールまでは決めていない」という企業がまだ多いのが実情です。
2. 法改正でどう変わる?義務化に向けた見直しのポイント
今回の労働基準法大改正の議論では、過労死防止や労働者の健康確保の観点から、この制度を努力義務から「義務化」へと引き上げる方向で議論が進められています。
💡 義務化における検討ライン
- 推奨・目標とされる時間: 原則「11時間」(業種や業務特性により最低「9時間」とする案など)
- 対象: 大企業から段階的に適用し、中小企業へ拡大していくシナリオが有力視
例えば「11時間インターバル」のルールを導入した場合、どのようなことが起こるでしょうか?
- 定時運用(残業なし): 退勤18:00 翌朝出勤9:00(15時間の休息 問題なし!)
- 残業発生時: 退勤23:00 翌朝の出勤は10:00以降でなければならない(本来の9時始業に1時間食い込む!)
つまり、「夜遅く残業させたら、翌朝の始業時間を後ろにズラさなければならない」ということになります。
3. 企業が一番悩む「食い込んだ時間(遅出)」の給与・勤怠処理
もし深夜残業で翌朝の出社が遅れた場合、実務上で一番トラブルになりやすいのが「その食い込んだ1時間の給料や勤怠をどう扱うか?」という問題です。
就業規則で定める際、主に以下の3つの運用パターンが存在します。
パターン①:食い込んだ時間を「労働したものとみなす」(推奨!)
始業時刻(9時)から実際の出社時刻(10時)までの1時間を「働いたもの(通常勤務)」として扱い、給与を減額しない方式です。
- メリット: 従業員が「休息を取ると給与が減るから隠れて早出(サビ残)しよう」という動機を失くせるため、健康確保の観点・労務トラブル防止で最も安全です。
パターン②:翌日の「終業時刻を後ろに繰り下げる」
翌日の勤務時間をそのまま全体的にスライドさせ、「10時始業〜19時終業」に変更する方式です。
- メリット: 1日の所定労働時間(8時間)をしっかり確保できるため、ノーワーク・ノーペイ(不就労控除)の計算が不要。
- 注意点: 翌日の終業がさらに遅くなるため、連日の残業スパイラルに陥らないよう注意が必要です。
パターン③:食い込んだ分を「不就労(ノーワーク・ノーペイ)」として控除する
働いていない1時間分を給与カットする方式です。
- リスク: 手取りが減るのを嫌がった従業員が、残業時間を少なく偽申告したり、インターバルを無視して無理に出社する原因になるため、実務上はあまりおすすめできません。
4. 経営者・人事担当者が「今すぐ取り組むべき3つの実務アクション」
「義務化になってから対応すればいいや」と放置していると、現場のシフトや業務運用が崩壊します。今のうちから以下の準備を進めておきましょう。
① 現在の勤務実態(インターバル不足)の可視化
勤怠データから、「前日の退勤〜翌日の出勤までが9時間未満(または11時間未満)になっている社員」がどの部署・どの職種に集中しているかを洗い出します。特定の個人や部署にシワ寄せがいっていないか現状把握がスタートラインです。
② 「緊急対応時の例外ルール」と「代償措置」の設計
トラブル対応や災害時など、どうしてもインターバルを確保できないケースは現場で発生します。
「どのような場合に例外を認め、後日どのような代償休息(振替の休みや時間付与)を与えるか」という事前ルールを設計しておくことが必須です。
③ 就業規則の改定と勤怠システムの改修
勤務間インターバルの時間を何時間(例:11時間、9時間)にするか決め、就業規則に「勤務間インターバル条項」を追加します。あわせて、勤怠管理システムで「インターバル不足のアラート」が出るよう設定を整えましょう。
まとめ:長時間労働の防止だけでなく「人材定着」の武器になる!
勤務間インターバル制度の義務化は、企業にとって一見「シフト管理の手間が増える面倒な法改正」に思えるかもしれません。
しかし、しっかりインターバルを確保して働く環境を整えることは、「過労による離職防止」「求職者への強いアピール(ホワイト企業化)」という絶大なメリットを生み出します。
- 義務化に向けて「原則11時間(または9時間)」の休息確保が求められる時代へ
- 翌朝に食い込んだ時間の給料や勤務扱いは、就業規則で事前ルール化が必須
- 「守れない緊急時の例外ルール」までセットで作ることが現場運用のカギ
制度が義務化されてから焦るのではなく、まずは自社の勤務実態をチェックし、就業規則の見直しから始めていきましょう!
次回の記事(第4弾)では、育児・介護や通院などで需要が高まる「有給休暇の時間単位取得(年5日)の上限撤廃・見直し」について詳しく解説します。ぜひご期待ください!
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