現在、厚生労働省(労働条件分科会)を中心として議論が進められている、約40年ぶりとなる労働基準法の大改正。
第1弾では「副業・兼業者における残業代通算ルールの廃止」を解説しましたが、続く第2弾のテーマは、小規模な飲食店・美容室・サロン・小売店などのオーナー様にとって死活問題となる「週44時間特例措置(特例対象事業)の全面廃止」です。
「うちの店は従業員10人未満だから、週44時間までなら残業代を出さなくていいんだよね?」
もし今そう思われているとしたら、この法改正で数年以内に店舗の資金繰りやシフト管理が根底から覆ることになるかもしれません。
なぜこの特例がなくなるのか、そして具体的にどんな影響が出て、今からどんな対策を講じるべきなのかを、社会保険労務士の視点から分かりやすく丁寧に解説します!
1. そもそも「週44時間特例(特例対象事業)」とは?
労働基準法における法定労働時間の原則は、ご存じの通り「1日8時間/週40時間」です。
しかし、現行の労働基準法第40条(および施行規則第25条の2)には、公衆の利便や業務の態様を考慮し、特定の業種かつ小規模な事業場に限り、例外的に「週44時間」まで残業代(割増賃金)なしで働かせることができるという特例ルールが認められています。
📌 特例が認められている要件(特例対象事業)
- 従業員数: 常時9人以下(10人未満)の事業場
- 対象業種:
- 商業(卸売業、小売店、理髪店、美容院など)
- 映画・演劇業(映画の撮影等を除く)
- 保健衛生業(病院、診療所、介護施設、保育園など)
- 接客娯楽業(飲食店、ホテル、旅館、ゴルフ場など)
例えば、従業員5人の飲食店で「月〜金:1日8時間(計40時間)+ 土曜日:4時間」の合計44時間を働かせた場合、原則の企業であれば土曜日の4時間分は25%増しの割増賃金が発生します。
しかし、この特例を使えば「週44時間以内なので割増賃金ゼロ(通常の時給・給与のみ)」で運用することができたのです。
2. なぜ廃止される?法改正の背景と見直しの方向性
この週44時間特例は、昭和の時代に「規模が小さく人手も足りない小規模店舗の負担を和らげるため」につくられた暫定的な措置でした。
しかし、今回の労基法大改正において、この特例措置を「全面廃止」し、すべての事業場を例外なく「週40時間」へ一律適用する方向で議論が最終調整に入っています。
💡 廃止に向けた主な理由
- 働き方改革・長時間労働是正の観点: 規模や業種によって労働時間の基本枠が異なるのは、労働者の健康維持や公平性の観点から望ましくない。
- 他業種との不公平感の解消: 製造業やIT業など、同じ「10人未満の小規模事業者」であっても特例が認められていない業種とのバランスを整える。
時代はすでに「週40時間」が定着しており、いよいよこの特例の歴史的役割が終わろうとしているのです。
3. 特例廃止で店舗経営に直撃する「2つの激震」
もしこの特例が全面廃止された場合、特例対象であった小規模店舗・事業場には具体的にどんな影響が出るのでしょうか?
① 「人件費(残業代)」のコストが単純増加する
これまで「週44時間」ピッタリでシフトを組んでいた店舗の場合、毎週「4時間分」の割増賃金(25%増し)が新たに発生することになります。
- 例:時給1,200円のアルバイト・パートスタッフが週44時間勤務の場合
- 週4時間のオーバー分 = 1,200円 × 1.25 × 4時間 = 6,000円 / 週 の残業代が発生
- 月換算で1人あたり約24,000円〜26,000円の人件費アップ
従業員が5人、10人といる店舗であれば、年間で数百万円単位の人件費増加につながります。
② 1ヶ月単位の「変形労働時間制」の再構築を迫られる
「特例を使っているから大丈夫」と、変形労働時間制や就業規則を整備しないまま週44時間で回していた店舗は、完全に運用ルールを変更しなければなりません。
週40時間枠の中でこれまでと同じ営業時間を維持するためには、変形労働時間制(1ヶ月単位など)を正しく導入してシフトを組み直すか、人員を増員して1人あたりのシフトを抑えるといった抜本的な見直しが必要になります。
4. 経営者・オーナーが「今すぐ取り組むべき3つの実務アクション」
「法改正が施行されてから考えればいいや」と放置していると、ある日突然、過去の未払い残業代請求トラブルに発展するリスクがあります。
今から準備しておくべき実務対応は以下の3つです。
① 自店舗の「実際の労働時間」の見える化
まずは、スタッフ一人ひとりの一週間あたりの実労働時間を集計しましょう。「実は週40時間以内に収まっていた」というケースもあれば、「週44時間ギリギリで運用していた」というケースもあります。現状の把握が第一歩です。
② 1ヶ月単位の「変形労働時間制」の導入検討
繁忙期と閑散期がある飲食店やサロンの場合、1ヶ月単位の変形労働時間制を正しく導入することで、「ある週は44時間、別の週は36時間」のように平均して週40時間以内に収め、残業代の発生を抑えることが可能です。
※導入には就業規則(または労使協定)の作成・届出が必要です!
③ 就業規則・労働条件通知書の改定
雇用契約書(労働条件通知書)や就業規則に「所定労働時間:週44時間」と記載している場合、法改正に合わせて「週40時間」に書き換える必要があります。
まとめ:早めのシフト・就業規則の見直しが店舗を守る!
今回の週44時間特例の全面廃止は、小規模な飲食店・美容室・サロン・個人商店のオーナー様にとって、間違いなく「人件費と労務管理の大きな壁」となります。
- 従業員9人以下の飲食店やサロンも、例外なく「週40時間」原則へ
- 対策をしないと、毎週4時間分の残業代(25%増)が自動的に積み上がる
- 変形労働時間制の導入や就業規則のアップデートで、事前のリスク回避が可能
法改正が施行されてから慌ててシフトを崩すのではなく、今から段階的に「週40時間ベースのシフト運用」へ移行しておくことが、店舗の利益とスタッフの雇用を守る最善の策です。
次回の記事(第3弾)では、就業規則の書き換えが必須となり社労士へのご相談も急増している「勤務間インターバル制度の義務化・強化」について詳しく解説します。ぜひご期待ください!
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