社会保険労務士という仕事は、いわば「労働の番人」です。企業の皆様に労働基準法を遵守していただくようアドバイスし、タイムカードによる適正な勤怠管理や、1分単位での残業代計算の重要性を日々説いています。「時間は資産であり、その管理こそが経営の基本です」と。
しかし、お恥ずかしながら告白します。そんな私自身が、来年2027年1月から「役員」という立場に変わることが決まったとき、一つの大きな迷いに直面しました。
「私はこれからも、自分自身の労働時間をタイムカードで刻み続けるべきなのだろうか?」
これまで当たり前だと思っていた「時間=価値」という労働者としての常識が、経営に参画するという現実を前にして、音を立てて崩れ始めたのです。
タイムカードを捨てることの「恐怖」と「解放」
役員になるということは、法律上は「労働者」ではなくなり、労働基準法の労働時間規制からも外れることを意味します。これまでは、朝9時に出勤し、夕方に退勤する。その「枠」の中にいることが、ある種の規律であり、安心感でもありました。しかし、自由度が広がることは、同時に「逃げ場がなくなる」ことでもあります。
タイムカードを廃止するということは、24時間すべてが「経営判断」の時間になるということです。夜中にふと思いついたアイデアも、休日に練り上げる戦略も、すべてが仕事であり、同時にすべてが自由。この境界線のない世界に飛び込むことに、社労士という「管理のプロ」である私は、柄にもなく恐怖を感じていました。
それでも、あえて私はタイムカードを捨てる決意をしました。それは、1分単位の労働時間を積み上げる「労働者」の視点から、アウトプットの質と会社への貢献度で価値を測る「経営者」の視点へと、自分自身を強制的にアップデートするためです。
元税金Gメンが直面した「役員報酬」の冷徹な現実
迷っていたのは精神的なことだけではありません。より現実的、かつ生々しい「数字」の問題も私を悩ませました。私はかつて、自治体の「税金Gメン(徴税吏員)」として、滞納整理や財産調査に明け暮れていました。時には個人の確定申告書、企業の貸借対照表、損益計算書を読み込み、役員報酬が会社のキャッシュフローを圧迫している現場も、逆に自身の報酬が低すぎて生活が困窮している経営者の姿も見てきました。
「教える側」の社労士であり、「取る側」の元徴収官。そんな私が、いざ「自分の役員報酬」を決める段になったとき、かつての経験が牙を剥きました。社会保険料の負担感はどれほどか。所得税・住民税の重圧、そして法人税とのバランスをどう取るべきか。
「役員報酬、いくらにしましょうか?」
お客様に聞かれれば、私は即座に最適なシミュレーションを提示できます。しかし、自分のこととなると話は別です。自分の働き方の「自由度」と、会社に残すべき「盾としての資金」、そして自分自身の「生活」。この三権分立をどう調和させるか。1円単位で計算機を叩きながら、私は経営者が孤独に戦っている「数字の重み」を、今さらながら肌で感じています。
酸素ルームの60分。静寂の中で見つけた答え
そんな迷いや重圧に押し潰されそうになるとき、私は最近、近所の「O2 BOX(高気圧酸素ルーム)」に逃げ込みます。
60分というセッション時間は、外部との連絡を断ち、脳に酸素を送り込みながら自分と向き合うための聖域です。ここでの私は、社労士でも役員でもなく、ただの人間として、静かに目を閉じ呼吸をします。
この60分間、私は一円の利益も生んでいません。タイムカード的な発想で言えば「無駄な時間」かもしれません。しかし、この酸素ルームで深く考え、学び、脳をリフレッシュさせることが、次の日の経営判断の質を劇的に高めてくれる。
「時間を売るのではなく、コンディションと判断力を磨くことに投資する」
これこそが、タイムカードを捨てた私が手に入れるべき、新しい価値観だと確信しました。自由度が広がるからこそ、その自由を「自己研鑽」と「戦略立案」に全振りする。それが、役員としての私の責任の取り方なのだと。
経営者の端くれとして、皆様の盾になる
2027年1月から、私は正式に役員としての道を歩み始めます。これまでの私は、「正解を教える専門家」だったかもしれません。しかしこれからは、皆様と同じように、役員報酬の額に悩み、働き方の自由と責任の狭間で揺れ、時に酸素ルームに逃げ込みながら、泥臭く経営を実践していく「同志」でありたいと思っています。
法律という「理屈」は知っていて当然。その上で、元徴収官としての「数字の冷徹さ」と、自らも役員として悩む「当事者としての痛み」を掛け合わせ、皆様の会社と個人を守る最強の「盾」を構築していきます。
「自分の働き方に迷う」という経験をした私だからこそ、提案できる賃金設計があります。「時間を管理される側」から「価値を創造する側」へ。その転換に伴う痛みも不安も、すべて私に共有してください。
役員になることは、ゴールではありません。むしろ、自分自身を実験台にして「新しい働き方の最適解」を探求する始まりです。タイムカードはなくなりますが、私の情熱に終わりはありません。
経営者の皆様。役員報酬のこと、これからの働き方のこと。もし迷っているなら、同じように迷い、悩み、そして一つの答えを出した私に、ぜひ一度お話しください。
共に「自由」と「納得感」のある未来を創っていきましょう。

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