なぜ「昇給」させたのに、会社がピンチになるのか?
社長、従業員の給料を上げた際、「社会保険の手続き」を後回しにしていませんか? 「毎年7月の算定基礎届でまとめてやればいいだろう」 もしそう思っているなら、それは大きな間違いです。
昇給や手当の変更によって給与が大きく変わった場合、年の途中でも保険料を書き換える**「月額変更届(随時改定)」が必要です。これを怠ると、数年後の調査で「過去に遡って数百万の保険料を一括で払え」**という厳しい指摘を受けることになります。
1,000件を超える徴収現場で、1円のズレも許されない修羅場を歩いてきた私から言わせれば、こうした事務手続きの放置は、役所に突っ込まれる最大の「隙」になります。
そもそも「月額変更届(随時改定)」とは何か?
社会保険料(健康保険・厚生年金)は、原則として年に一度、7月の「算定基礎届」で見直されます。 しかし、年の途中で「昇給」や「役職手当の新設」などで給与がガツンと上がった(または下がった)場合、次の7月を待っていては、実態と保険料がズレすぎてしまいます。
このズレを強制的に修正する手続きが「月額変更届」です。 「算定(定時決定)」が定期健診なら、「月変(随時改定)」は緊急手術のようなものです。
チェックすべきは「3つの絶対条件」
月額変更届が必要になるのは、以下の3つの条件をすべて満たした時だけです。一つでも外れれば、出す必要はありません。
① 「固定的賃金」が変わったか?
基本給、役職手当、通勤手当、固定残業代など、**「毎月決まって払う項目」**に変動があった場合です。
- 要注意:残業代(非固定的賃金)がどれだけ増えても、基本給が変わっていなければ対象外です。
② 変動から3ヶ月間の平均が「2等級」以上変わったか?
給料が上がった月から3ヶ月間の給与(残業代含むすべて)を平均し、今の標準報酬月額と比べて「2段階」以上の差があるかを見ます。
- ポイント:基本給を「数千円」上げただけでも、たまたまその3ヶ月に残業が重なると「2等級差」を簡単に超えてしまいます。
③ 3ヶ月とも「支払基礎日数」が17日以上あるか?
欠勤などで出勤日数が極端に少ない月がある場合は、対象から外れます。
現場でよくある「出し忘れ」の危険なケース
私が現場で見てきた、特に危ないケースを紹介します。
1. 「固定残業代」を導入・変更したとき
給与体系を変えて固定残業代を新設した場合、これは「固定的賃金の変動」に該当します。総額が変わらなくても、内訳が変われば対象になる可能性があるため要注意です。
2. 「通勤手当」が変わったとき
意外と忘れるのがこれです。引っ越しで通勤手当が月1万円上がった。これも立派な「固定的賃金の変動」です。
3. 「降給(給与カット)」をしたとき
業績悪化や時短勤務で給与を下げた場合、この届出を出さないと**「給料は低いのに、高い保険料を引かれ続ける」**ことになります。従業員のモチベーションを著しく下げる原因になります。
元徴税吏員が見てきた「調査の現場」
「出さなくてもバレないだろう」 そう考える社長もいますが、役所の調査は数年おきに必ずやってきます。
私はかつて行政の側で、多くの給与明細、預金通帳等をチェックしてきました。行政の人間は少しの違和感に敏感で、そのような点は時間をかけて追及します。 例えば「この時期に昇給しているのに、なぜ月変が出ていないのか?」を執念深く確認するように…。
未払いの保険料は、会社負担分だけでなく「従業員負担分」も、まずは会社が一括で立て替えて納めるよう指導されます。 数年分の差額をいきなりキャッシュで払えますか?辞めた社員の分まで負担できますか? 「正しい手続き」は、会社のお金を守るための最強の防衛策なのです。
まとめ:経営管理は「小さなズレ」を逃さないこと
月額変更届は、単なる事務作業ではありません。 会社の資金繰り(キャッシュフロー)を管理し、従業員との信頼関係を守るための「経営判断」の一部です。
- 給与改定の後は必ず「2等級差」をチェックする
- 迷ったら「実務を知る専門家」にすぐ聞く
この習慣があるかないかで、数年後の会社の残高が変わります。 もし、今の貴社の給与改定が正しく処理されているか不安なら、私の「リスク診断」を一度受けてみてください。行政の内側を知る私だからこそできる、隙を見せない労務管理を徹底サポートします。
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