みなさま、こんにちは。
台風6号が日本を襲っていますね……。交通機関の計画運休や大雨の影響により、急遽「自宅待機」を余儀なくされたり、出社時間が後ろ倒しになったりするケースが多発しています。
こうした緊急事態が発生した際、現場や人事担当者の間で必ず議論になるのが「待機時間中の給料や手当の支払い義務はどうなるのか」という問題です。
「会社の指示で待機しているのだから、給料は全額出るべきでは?」
「いや、天災によるものだから無給(ノーワーク・ノーペイ)が原則では?」
ネット上でも意見が割れがちなこのテーマについて、今回は具体的な「法的根拠」や「行政通達(通達)」を例示しながら、法律上の境界線を冷徹に仕分け・解説していきます。
⚖️ 法的根拠①:労働基準法第26条(休業手当)の原則
まず、会社都合で従業員を休ませた場合の基本ルールを定めているのが、労働基準法第26条です。
【労働基準法第26条(休業手当)】 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
ここでの最大の争点は、台風による自宅待機が「使用者の責に帰すべき事由(会社の責任)」に該当するかどうか、という点です。
実は、この「使用者の責」の範囲は非常に広く、経営者側の主観的な過失だけでなく、経営・管理上の障害(資材不足、元請けの都合など)も含まれると解釈されています。ただし、「天災地変等の不可抗力」であると認められる場合は、例外的に会社の責任は免除され、休業手当の支払義務は発生しません。
🔍 法的根拠②:不可抗力と認められるための「2つの要件」
台風を理由に「無給(休業手当なし)」とするためには、単に「台風が来ているから」というだけでは不十分です。過去の行政通達(昭和23年6月11日 基発第881号など)において、不可抗力と認められるには以下の2つの要件をいずれも満たす必要があるとされています。
- その原因が事業の外部より発生した事故であること
- 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお、避けることのできない事故であること
この要件を踏まえ、実際のケースを2つに仕分けしてみましょう。
🔴 ケースA:不可抗力として「無給」が認められやすいケース
- 状況: 計画運休により鉄道やバスなどの公共交通機関が完全にストップし、従業員が物理的に出社する手段がない。
- 判断: これは「事業の外部より発生した事故」であり、経営者がどれだけ努力しても出社させることは不可能です。労働法の基本原則である「ノーワーク・ノーペイ(労働が提供されなければ賃金は発生しない)」に基づき、法律上の給与および休業手当の支払義務は発生しない(無給でも違法ではない)と判断されます。
🟢 ケースB:会社の責任として「休業手当(または全額)」が必要なケース
- 状況: 交通機関は通常通り、あるいは一部遅延程度で運行しており、物理的には出社可能であるにもかかわらず、会社が「万が一の安全を考慮して、一律で自宅待機とする」と経営判断を下した。
- 判断: 安全配慮の観点からは正しい判断ですが、物理的に労働可能な状態である従業員に対し、会社側の裁量で労働を拒否した形になります。これは「最大の注意を尽くしても避けることのできない事故」とは言い切れないため、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」に該当し、少なくとも平均賃金の6割以上の休業手当を支払う義務が生じます。
⚠️ 法的根拠③:民法第536条第2項(危険負担)との関係
さらに実務上、注意しなければならないのが民法第536条第2項との兼ね合いです。
【民法第536条第2項(危険負担の債権者主義)】 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。
労働契約において、債権者は「会社」、債務(労働の提供)を負うのは「従業員」です。 もし、上記のケースBのように、完全に会社側の都合や指示によって労働が受けられなくなった(履行不能になった)場合、民法上は従業員に「10割の通常賃金を請求する権利」が発生する可能性があります。
労働基準法第26条の「6割」は、あくまで刑事罰を免れるための最低基準に過ぎません。会社都合での自宅待機を命じる場合は、就業規則の定めに従って全額(10割)の給与を保障するケースが一般的です。
🛠️ 企業が取るべき実務的な防衛策
台風のたびに「有給か無給か」で現場が混乱したり、従業員との間に不信感が生まれたりするのは、会社にとって大きなガバナンス上のリスク(足元のバグ)となります。これを防ぐため、以下の2つのアプローチが有効です。
- 有給休暇への振り替え(事前の合意が必須)
無給となる時間帯について、従業員本人の不利益(収入減少)を防ぐため、本人の希望・同意のもとで「有給休暇」として処理し、10割の給与を担保する運用です。※会社が一方的に強制することは労働基準法上できません。 - 在宅勤務(リモートワーク)への柔軟な切り替えルールの策定
「出社は危険なため見合わせるが、自宅にてクラウドやチャットツールを用いて通常業務を行う」という指示であれば、これは「休業」ではなく「労働」です。通常通りの給与が発生するため、労使双方に不満が出ない最もスマートな解決策となります。
🏢 まとめ:災害に強い「ハイブリッドな就業規則」の整備を
今回の台風のように、突発的な天災地変に対して「自宅待機の基準」や「賃金の支払いルール」が曖昧な組織は、思わぬ労務トラブルの火種を抱えていると言えます。
「自社の就業規則は、台風時の休業手当の規定が明確になっているか?」
「自宅待機を命じる際、どのような手順でアナウンスすべきか?」
少しでも不安を感じる経営者や人事担当者様は、手遅れになる前に、専門家である社会保険労務士によるコンプライアンス診断や就業規則の見直しを行うことを強くお勧めいたします。法律の網目を完璧にクリアし、災害時でも会社と従業員の双方を守れる強い組織のルールを構築していきましょう。
それでは、台風の暴風雨にはくれぐれもお気をつけて、安全第一でお過ごしください。

コメント