【実務直結】「2026年にも法改正あり?」有給休暇の「通常賃金一本化」論議と、パート「6割計算」の甘い罠を元税金Gメンが斬る

「早ければ2026年(令和8年)にも、労働基準法が大きく変わるかもしれない」 現在、人事労務の界隈でそんな議論が水面下で本格化しているのをご存知でしょうか。

中でも中小企業の経営者や担当者が「絶対に知っておくべき」テーマがあります。それが、「年次有給休暇取得時の賃金算定方式の原則化(通常賃金への一本化)」です。

「うちはパートやアルバイトが多いから、有休の時は6割払えばいいんでしょ?」 もしあなたがそう思っているなら、今後の法改正の波に足元をすくわれる危険性が極めて高いと言わざるを得ません。

元徴収官として数々の企業の「帳簿の裏側」を見てきた視点から、今まさに国が進めようとしている法改正の議論が経営にどんなインパクトを与えるのか。そして世間に蔓延する「6割計算」のカラクリと勘違いについて解剖していきます。

目次

1. 現在の有給休暇の賃金算定、3つのルール

そもそも、現行の労働基準法において、従業員が有給休暇を取得した際の賃金計算方法は、以下の3つから就業規則で定めて選択することになっています。

  1. 通常の賃金(所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金) 最もシンプルで、従業員にとっても分かりやすい方法です。「もしその日出勤して、シフト通りに働いていたらもらえるはずだった額」をそのまま支払います。
  2. 平均賃金 直近3ヶ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の「総日数(暦日数)」で割った金額です。
  3. 健康保険の標準報酬日額 (※労使協定が必要であり、実務上採用している中小企業は少数派です)

現在、厚生労働省の労働条件分科会などで議論が進んでいるのは、この3つの選択肢を事実上廃止し、「1. 通常の賃金」に原則として一本化しようではないか、という動きです。

2. パートの有給が「6割」になるカラクリと、よくある勘違い

ここで、パートやアルバイトが多い企業で蔓延している「有給は6割支給でいい」という認識について整理します。

パートタイマーが有給休暇を取得した際の賃金が「通常の賃金の6割」になるのは、会社の規定(就業規則)で「2. 平均賃金」の計算方式を採用している場合です。 平均賃金とは、直近3ヶ月間に支払われた給与の総額を、その期間の「総日数(暦日数)」で割って算出した1日あたりの金額です。パートタイマーのように休日が多い場合、労働日ではなく「暦日数(例えば92日など)」で割るため、欠勤が多かったりすると、1日あたりの単価が本来の時給換算よりガクッと下がります。 その結果、通常の賃金の6割程度まで下がる(あるいは労働基準法で定められた『実労働日数で割った金額の6割』という最低保障額が適用される)ケースが多発するのです。

この「結果的に6割程度になる(最低保障が適用される)支給」は、就業規則に定めていれば、現行の労働基準法で認められている適法な計算方法です。 ただし、ここには「最低賃金を下回ってはならない」という絶対ルールが存在します。計算上の金額が地域の最低賃金を下回った場合は、最低賃金額への引き上げが必須となります。

【元Gメンからの警告:ここが勘違いの罠】 危険なのは、この複雑な平均賃金の仕組みを理解せず、「計算もせずに、とりあえず通常の賃金の6割だけ払っておけば合法だ」と勘違いしているケースです。就業規則で「通常の賃金」と定めているのに勝手に6割に減額したり、平均賃金の計算や最低賃金のチェックを怠ったりしていれば、それは明確な賃金未払いとなります。

3. なぜ「通常の賃金一本化」が議論されているのか?行政の狙い

では、現行法で「適法」とされている平均賃金(結果としての6割支給)を廃止し、「通常の賃金への一本化」に向けた議論がなぜ今、熱を帯びているのでしょうか。

理由は非常にシンプルです。「従業員がためらうことなく年次有給休暇を取得できるようにするため」です。

現行制度で「平均賃金」を採用している企業の場合、前述のカラクリにより「普通に出勤するよりも、有給を取った日の方が1日の給与が少なくなる」という現象が起きます。これでは、「有給を取ると生活費が減るから休めない」という心理が働き、国が推進する有給取得率の向上に逆行してしまいます。

「休んでも、出勤した時と同じ額が支払われる」。 この当たり前の安心感を担保するために、行政は労働者の実質的な手取り減になりやすい「平均賃金」方式を原則廃止し、クリアな「通常の賃金(100%支給)」へ統一しようと舵を切ろうとしているのです。徴収官として行政側の論理に触れてきた経験から言えば、これは「有休時の実質的な減額措置はもう許さないぞ」という国からの強いメッセージに他なりません。

4. もし法改正が現実になれば?問われる経営者の「インフラ投資」

早ければ2026年にも施行されるのでは、と囁かれるこの「通常賃金への一本化」。もしこれが現実となれば、企業の実務負担は劇的に変化します。特に、今まで「平均賃金」を採用して人件費を抑えてきた企業は、有休取得時の人件費が実質的に100%へと跳ね上がります。

さらに、シフト制のパート・アルバイトが多い業界では、「その日有休を取らなければ、本来何時間働く予定だったか」を正確に記録・管理するシステムが不可欠になります。

ここで問われるのが、経営者の「インフラへの投資姿勢」です。 いまだにタイムカードを手計算していたり、有休管理をエクセルで属人的に行っていたりする企業は、この法改正の波に間違いなく飲み込まれます。

賃料には大金を払うのに、従業員の生産性を上げるためのモニター1台、最新の勤怠管理クラウドシステム1つをケチる。特定の業務をする人間だけを優遇し、フラットな作業環境すら提供できない。そんな「見せかけだけのコスト削減」に走る組織は、いずれ法改正に伴う未払いリスクを抱え、労基署の指導を受け、最終的には愛想を尽かした優秀な従業員から去られていきます。

5. 法改正の足音に備える、今すぐやるべき3つのこと

「まだ決まったわけじゃないし」と議論を対岸の火事として見ていると、いざ法改正が決まった時に手遅れになります。今すぐ以下の3つのステップで「組織の監査」を行ってください。

① 自社の就業規則・賃金規程の現状把握 まずは自社の就業規則を開き、「年次有給休暇の賃金」がどの方式で記載されているかを確認してください。「平均賃金」と記載されている場合、将来的な「通常の賃金」への規程変更と、それに伴う資金繰りの見直しを今から想定しておく必要があります。

② 人件費インパクトのシミュレーション 平均賃金(約6割)から通常の賃金(100%)へ移行した場合、有休取得時の単価がいくら上がるのか。全員が年5日消化した場合、年間でどれだけの人件費増になるのかを正確に試算してください。

③ 勤怠管理システムのデジタル化準備 シフト制従業員が有休を取った際、「その日のシフト上の労働時間」を正確に自動計算できる仕組みが必要です。システム投資を「不可欠な必要経費」として割り切る決断が求められます。

6. 最後に:組織は自分で作るもの

いつ来るか分からない、しかし確実に足音が近づいている法改正。これは単なるルールの変更ではなく、「従業員をどう大切にしているか」という企業の品格が問われるリトマス試験紙です。

私たち社会保険労務士法人は、こうした法改正の議論の裏側にある「行政の意図」を読み解き、事業主の皆様のリスクを未然に防ぎ、働くすべての人が笑顔になれる組織づくりをサポートしていきます。「誠実なルール」を持った組織こそが、これからの地域社会を牽引していくと確信しています。

「うちの有給管理、将来の法改正に耐えられるだろうか?」 少しでも不安を感じた経営者の方は、手遅れになる前にぜひ一度ご相談ください。クリアな労務管理で、誰からも選ばれる最強の組織を一緒に創り上げましょう!

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