「〇〇社の社長、お忙しいところ恐れ入ります。私は退職代行サービス『〇〇』の担当者です。御社に勤務されているAさんより依頼を受け、本日をもって退職する旨の意思表示を代理でお伝えいたします。今後の連絡はすべて当方を通してください。本人やご家族への直接の連絡はお控えください……」
ある日突然、会社に届く一本の電話やFAX。これが今、全国の経営者を悩ませ、パニックに陥らせている「退職代行サービス」のリアルです。
昨日まで普通に働いていた社員が、何の前触れもなく、第三者を挟んで「今日で辞めます」と告げてくる。経営者からすれば、「社会人としての常識はどこへ行ったんだ」「預かっている業務や引き継ぎはどうするんだ」と、怒りや裏切られたような気持ちが先行するのは当然のことです。
しかし、ここで経営者が感情のままに間違った初動を起こしてしまうと、事態は一気に泥沼化し、最悪の場合は会社側が法的なペナルティを科される地雷を踏むことになります。
今回は、数々の修羅場を解決してきた労務のプロフェッショナルとして、退職代行が届いたときに会社が取るべき「正しい生存戦略」を徹底解説します。
1. 怒りに任せて激昂した経営者がやってしまう「3大NG対応」
まず、通知が届いた瞬間に会社側が「絶対にやってはいけないこと」を仕分けします。ここを間違えると、相手の弁護士や代行業者に格好の攻撃材料(エビデンス)を与えてしまうことになります。
❌ NGその①:本人や身元保証人(親など)への「鬼電」
「直接本人から理由を聞くのが筋だ」「親は知っているのか」と、本人や家族のスマホに何度も電話をかける行為は絶対にNGです。 退職代行を入れる労働者は、会社や社長に対して強い恐怖心や精神的プレッシャーを感じているケースがほとんどです。そこに会社側から直接連絡を入れると、「会社から脅迫まがいの連絡があった」と主張され、ハラスメントの証拠として録音・悪用されるリスクが跳ね上がります。
❌ NGその②:「損害賠償を請求してやる」という脅し
「引き継ぎをしないせいで会社に大損害が出た。損害賠償を請求するぞ」「突然辞めるなら今月の給料は払わない」といった感情的な脅しは、状況を100%悪化させます。 法的には、労働者には「退職の自由」が認められており(民法第627条)、入社時の契約内容にもよりますが、原則として退職の申し出から2週間が経過すれば法律上は自動的に雇用契約が終了します。また、どれだけ突然の退職であっても、それまでに「働いた分の給与」を支払わないのは労働基準法違反(全額払いの原則)となり、会社が一発でレッドカードを食らいます。
❌ NGその③:代行業者に対して感情的に怒鳴り散らす
「お前らは何者だ!本人を出しなさい!」と電話口の担当者に対して感情を爆発させても意味はありません。彼らはビジネスとして淡々とマニュアル通りに対応しているだけです。会社側が冷静さを欠けば欠くほど、相手の交渉のペースに巻き込まれるだけです。
2. まず相手の「正体」を客観的に見極めよ
退職代行から連絡が来たら、会社側がまず行うべきは「その代行業者がどの組織(属性)なのか」を客観的に見極めることです。ここが対応のシールド(防壁)を張る上での分岐点になります。
退職代行には、大きく分けて以下の3つのパターンが存在します。
- ① 民間の一般企業(資格なし)
一番安価で多いパターンです。彼らに認められているのは、あくまで「本人の退職の意思を『伝える』という伝言係」だけです。残業代の請求や退職日の「交渉」を行う権限(弁護士資格)はありません。会社側が「退職日は〇月〇日にしてほしい」などと条件を提示した際、彼らがその交渉に応じる行為は「非弁行為(弁護士法違反)」という違法行為になります。 - ② 労働組合(ユニオン)
民間企業が労働組合の形式を取って運営しているケースです。労働組合には憲法上「団体交渉権」が認められているため、退職日の調整や有給消化の交渉を行うことができます。会社側としても、無条件に突っぱねることは難しくなります。 - ③ 弁護士法人
弁護士が直接代理人となっているケースです。法的な交渉権を100%持っているため、未払い残業代の請求や業務上のトラブルの精算まで含めて包括的に動いてきます。この場合は、会社側もプロを挟んで法的に真っ向から対応する必要があります。
相手の通知書に記載されている運営元をチェックし、「単なる伝言係」なのか「交渉権を持った組織」なのかを瞬時に見極めてください。
3. 会社を守りつつ野生のスピードで解決する「正しい初動ロードマップ」
では、実際に通知が届いたら、会社はどのように実務を進めるべきなのでしょうか。安全に着地させるための3ステップです。
ステップ①:まずは「退職届(書面)」の提出を求める
口頭やFAXの通知だけでは、後から「そんなことは言っていない」「勝手に辞めさせられた(不当解雇だ)」とひっくり返されるリスクが残ります。 代行業者に対し、「退職の手続きを進めるにあたり、本人直筆の署名・捺印がされた『退職届』を郵送してください。それが届き次第、社内手続きを開始します」と冷静に伝えます。これにより、客観的な退職の事実(エビデンス)を100%ストックします。
ステップ②:有給消化の処理と退職日の決定
民法上、退職の意思表示から2週間(14日)で雇用関係は終了します。多くの労働者は、この14日間を「残っている有給休暇の消化」に充てるよう求めてきます。 会社側に「時季変更権(有給の時期をずらす権利)」はありますが、退職していく社員に対して「別の日に取れ」と言うことは現実的に不可能なため、基本的には有給消化を認めざるを得ません。就業規則のルールと照らし合わせ、淡々と退職日までのスケジュールを確定させます。
ステップ③:会社支給品の「郵送」での返却を指示する
健康保険証、制服、社用PCやスマホ、オフィスのセキュリティカードなど、会社から貸与している物品をすべてリストアップし、代行業者を通じて「〇月〇日までに、すべて郵送(元払い)で会社宛てに返却してください」と指示します。 直接顔を合わせる必要はありません。逆に、会社から本人へ送るべき書類(離職票や源泉徴収票、社会保険の資格喪失通知など)も、手続きが完了次第、淡々と郵送で送付します。
4. 結論:退職代行は「仕組み」でシャットアウトせよ
退職代行を使された経営者の多くは、「最近の若い奴は……」と労働者のモラルを責めがちです。しかし、本質的な問題はそこではありません。 労働者が「わざわざお金を払ってでも代行業者を使わなければ辞められない」と感じてしまうような、職場の風通しの悪さ、あるいは「辞めたい」と言い出したらトラブルになるような社内環境(システムのエラー)にこそ、真の原因が隠されています。
ひとたび退職代行を使われてしまったら、執着せずにハイスピードで事務処理を終わらせ、次の採用に向けて動くのが最大の防御です。
- 今後の再発を防ぐための就業規則のアップデート
- ハラスメントのない適切な評価・相談制度のビルド
こうした社内インフラを今すぐ整えることこそが、会社を守る最強のシールドになります。
「突然の退職代行からの連絡に困惑している」「社内の退職規定やハラスメント対策を強化して、会社を守る防衛網を作りたい」という経営者の方は、事態が悪化する前に、ぜひ当オフィスまでご相談ください。行政の視点を取り入れた強固な管理体制を共に構築していきましょう。

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