【一発アウト!】「基本給30万円(残業代含む)」と書いた瞬間、未払い残業代の“二重払い”が確定する?経営者がハマる固定残業代の致命的な罠

【この記事の要点】

  • 「基本給〇〇円(残業代込み)」という曖昧な契約は、法的に「残業代を1円も払っていない」とみなされる。
  • 最高裁判例(医療法人康心会事件等)により、「基本給」と「固定残業代」が1円単位で区別されていない(判別可能性がない)契約は全額無効となる。
  • 無効化されると、過去に払ったつもりの手当がゼロ計算され、高額な未払い残業代の「二重払い地獄」(過去3年分遡及)を引き起こす。

「ウチは基本給を高めに設定して『残業代込み』って契約書に書いてるから、後から残業代を請求されることなんてないよ。社員も納得してハンコ押してるしね」

もし今、この記事を読んでいる経営者や人事担当者の皆様の中で、少しでもこう思っている方がいらっしゃったら、今すぐ自社の雇用契約書や求人票を確認してください。

元・徴税吏員(税金調査官=Gメン)であり、現役の社会保険労務士有資格者である私の視点から、忖度なしで残酷な真実をお伝えします。

その契約書、労働基準監督署(労基署)の調査が入った瞬間、「一発アウト」です。

後から数百万円、社員が10人いれば数千万円規模の「未払い残業代の二重払い」という地獄のキャッシュアウトを引き起こす、経営者にとって最も恐ろしい時限爆弾になります。

今回は、多くの中小企業が悪気なくやってしまっている「固定残業代(みなし残業代)の致命的な罠」について、実際の最高裁判例を交えながら、元Gメンの冷徹な視点で徹底解剖します。

目次

第1章:なぜ「残業代込み」は一発アウトなのか?

求人票の見栄えを良くしたい、毎月の給与計算の手間を省きたい。そんな理由から、以下のような条件で社員を雇っていませんか?

  • NG例①:「基本給 300,000円(時間外手当を含む)」
  • NG例②:「月給 300,000円(営業手当として固定残業代を含む)」

経営者側からすれば、「毎月30万円という十分な額を払っているのだから、多少残業しても文句はないだろう」というお気持ちは痛いほど分かります。実際、社員本人も入社時はその金額に納得してハンコを押しているはずです。

しかし、いざその社員と揉めて退職した直後、弁護士や合同労組(ユニオン)から会社宛てに内容証明郵便が届きます。 「未払い残業代〇百万円を直ちに支払え」と。

「いやいや、契約書に『残業代込み』って書いてあるだろう!」と反論しても、法律のプロや行政の前では、その主張は1ミリも通用しません。

なぜなら、その記載方法は労働基準法上「1円の残業代も払っていない(ただの基本給)」とみなされるからです。

第2章:最高裁の鉄槌「医療法人康心会事件」の残酷なロジック

「そんな馬鹿な!お互い合意した契約じゃないか!」と思うかもしれませんが、これは私が脅しているわけではありません。日本の最高裁判所が、明確に「アウト」という基準を出しています。

実務上、絶対に避けては通れない超有名な最高裁判例があります。「医療法人康心会事件(平成29年7月7日最高裁第三小法廷判決)」です。

この事件では、医師に対して「年俸1,700万円、基本給にして月額141万6,000円(※この中に時間外労働の対価が含まれる)」という契約が結ばれていました。会社側(病院側)は「高額な給与を払っているし、残業代もこの中に入っている」と主張しました。

しかし、最高裁は冷酷にこう言い放ちました。

「基本給のうち、いくらが通常の労働の対価で、いくらが時間外労働の対価(残業代)なのか、全く区別がつかない(=判別可能性がない)。ゆえに、この固定残業代の定めはすべて無効である」

ここが、法律の最大の罠です。 「判別可能性」という言葉を覚えてください。要するに、「基本給部分がいくらなのか」と「残業代部分が何時間分で、いくらなのか」が1円単位で明確に分かれていない契約は、全額がただの『基本給』として扱われてしまうのです。

第3章:会社を吹き飛ばす「二重払い」の地獄の計算式

「じゃあ、無効になったらどうなるの?不足分を少し払えばいいんでしょ?」 いいえ、違います。ここからが「一発アウト」たる所以、恐怖の「二重払い地獄」の始まりです。

先ほどの「基本給30万円(残業代含む)」を例に、労基署の調査官や相手方弁護士がどう計算し直すか、元Gメンの私がシミュレーションしてみましょう。

会社側は「基本給23万円+残業代7万円」のつもりで30万円を払っていたとします。 しかし、明確に区別して記載していなかったため、国は「この社員の基本給は30万円ですね。では、この高い基本給をベースにして、今までタダ働きさせていた残業代を『ゼロからすべて』計算し直してください」と命じます。

1. 時給単価のバグ上がり

本来なら23万円をベースに計算すべき残業代の時給が、30万円をベースに計算されるため、割増賃金の基礎となる時給単価がバグレベルで跳ね上がります。

2. 払ったはずの残業代が「ゼロ」扱いに

会社は毎月7万円の残業代を払っていたつもりですが、法律上は「すべて基本給」と判定されたため、過去の残業代の支払い実績は「0円」とみなされます。

3. 地獄の3年遡及請求

現在、未払い残業代の消滅時効は「3年」(当分の間)です。跳ね上がった高い時給単価で、過去3年分の残業時間をすべて掛け算し直します。

結果どうなるか。毎月数万円の未払いが発生し、3年間で社員1人あたり「300万〜500万円」の未払い残業代が確定します。すでに払ったつもりの30万円に上乗せして、さらに数百万を払わなければならない。これが「二重払いの地獄」です。

もしこれが、同じ契約を結んでいる社員10人全員に波及したら? 3,000万円〜5,000万円のキャッシュアウト。優良な中小企業が一瞬で黒字倒産する破壊力です。

第4章:合法的に身を守る「正しい固定残業代」の書き方

では、経営者はどうやって会社を守ればいいのでしょうか。 答えは非常にシンプルです。「国がぐうの音も出ないほど、明確に分ける」ことです。

先ほどの契約であれば、雇用契約書や労働条件通知書、求人票に以下のように1円単位で明記しなければなりません。

【正しい記載例】

  • 基本給: 230,000円
  • 固定残業手当: 70,000円(時間外労働の有無にかかわらず、30時間分の時間外手当として支給する)
  • ※上記時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給する。

押さえるべき3つの絶対要件

  1. 判別可能性: 「基本給」と「固定残業代」の金額を1円単位で完全に切り離すこと。
  2. 時間数の明記: その固定残業代が「何時間分」に相当するのかを明記すること。
  3. 清算規定: 設定した時間を超えて残業した場合は、「当然追加で払う」旨を記載すること。

この3つの要件が完璧に揃って初めて、固定残業代は「合法」として国に認められます。たった数行の記載をサボっただけで、会社は数千万円のリスクを背負うことになるのです。

終わりに:国からの「ガサ入れ」が来る前に、経営者がすべきこと

私は長年、行政の側で「税金を徴収する調査官(Gメン)」として数々の企業を見てきました。国の調査官は、経営者の「知らなかった」「悪気はなかった」という情には一切流されません。彼らが見るのは、契約書の文言と法律のロジックという「客観的証拠」だけです。

  • 「ウチの契約書、もしかしたらマズいかも…」
  • 「昔から使っている就業規則のテンプレートを、そのまま使い回している」
  • 「昇給させたけど、固定残業代の金額や時間数を放置したままだ」

もし少しでも心当たりがあるなら、手遅れになる前に、専門家の目を入れてください。労基署の調査が入ってから、あるいは退職した社員から内容証明が届いてからでは、我々プロでも打てる手は限られてしまいます。

元Gメンの視点で行う『事前リスク診断』

LIFE ONE HRでは、元・行政調査官(Gメン)の視点から、貴社の雇用契約書や就業規則に潜む「一発アウト」のバグを事前に洗い出すリスクチェック・労務相談を受け付けています。

実際の行政調査や労働トラブルが発生する前に、合法的に会社と利益を守る防波堤を構築しておきましょう。

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