「うーん、先月採用した営業のA君だけど、どうもウチの社風に合わない気がするんだよね。履歴書や面接の印象とは違って、指示した仕事の手も遅いし……。まぁ、まだ『試用期間中』だから、今月末でサラッと契約を終わり(本採用拒否)にしてもらおうか」
中小企業の経営者や人事担当者の皆様、自社で新しい社員を採用した際、このような会話を社内で交わしたことはありませんか?
「試用期間なんだから、自社に合うかどうかを見極めて、ダメならクビにできるのは会社の自由だし、そのための『お試し期間』だろう」
もし、このようにタカをくくっているのであれば、元・徴税吏員(税金調査官=Gメン)であり、現役の社会保険労務士有資格者である私から、本日2回目の残酷な現実を突きつけさせていただきます。
その認識で社員に「明日から来なくていいよ」と告げた瞬間、貴社は労働契約法違反で「一発アウト」になります。
社員側が弁護士や合同労組(ユニオン)に駆け込んだ場合、ほぼ100%の確率で会社側が敗訴し、多額のバックペイ(働いていなかった期間の給与の遡及支払い)や慰謝料をむしり取られる大炎上トラブルへと発展します。
今回は、日本中の社長が最も勘違いしている「試用期間の本当の法律」と、行政が定めた絶対に超えられない基準について徹底解説します。
第1章:「試用期間=いつでもクビにできる」は大誤解
なぜ、多くの経営者が「試用期間なら自由に切れる」と思い込んでしまうのでしょうか。 それは、日本の労働基準法や労働契約法における「言葉の定義」を正しくハックできていないからです。
法律上、試用期間というのは「解雇権留保付労働契約(かいこけんりゅうほつきろうどうけいやく)」という非常に小難しい状態を指します。
これを社長向けの言葉に超翻訳すると、 「もう正式に採用して雇用契約(本契約)は成立しているけれど、面接だけではどうしても分からなかった致命的なバグ(適格性の欠如)が後から見つかった場合に限り、後出しジャンケンでクビにする権利(解雇権)を、一応会社側にキープ(留保)しておく期間」 という意味になります。
ここでの最重要ポイントは、「試用期間であっても、すでに本契約はスタートしている」という事実です。
つまり、試用期間中の「本採用拒否(サヨナラ)」というのは、法律上はアルバイトのシフトを減らすような軽い話ではなく、通常の正社員をクビにする「解雇」と全く同じ、極めて重い法的ハードルをクリアしなければならないのです。
第2章:最高裁のキング・オブ・判例「三菱樹脂事件」が定めた鉄のルール
「お試し期間なのに、普通のクビと同じなんて厳しすぎるだろ!」と怒る社長もいるでしょう。しかし、これは日本の労働法の基礎を作った、最高裁判所の超ウルトラ有名な歴史的判例で、すでに白黒はっきり決まっています。
全社労士がバイブルとして頭に叩き込んでいるのが、「三菱樹脂事件(最高裁 大法廷 昭和48年12月12日判決)」です。
この事件では、ある企業(三菱樹脂)が採用した社員の試用期間中に、「学生運動にガッツリ参加していた過去を隠して入社していた(虚偽申告)」という、会社からすればブチ切れるような事実を掴みました。「ウチの社風に合わないし、嘘つきは本採用できない」と会社はクビを宣告したのです。
ところが、最高裁判所のジャッジは会社側への一発アウト(解雇無効)でした。 最高裁は、企業側に試用期間中の適性をみる権利は認めつつも、以下のような「鉄のルール」を言い渡したのです。
「試用期間中の解雇(本採用拒否)が許されるのは、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合に限られる。それは、採用決定の段階(面接や履歴書)では、どれだけ注意しても知ることができなかったような、致命的な欠陥が働き始めてから初めて発覚した場合だけである」
この最高裁の基準を、元Gメンの冷徹な目で今の時代に当てはめると、経営者がやりがちな以下の理由はすべて「客観的に合理的な理由」とは認められず、一発アウトになります。
- 「思っていたより仕事の手が遅い、スキルが足りない」
👉 面接で見抜けなかった会社側の見る目(採用基準)の無さが原因。アウト。 - 「なんとなくウチの社風や、他のスタッフと馴染まない気がする」
👉 主観的な感想に過ぎず、客観的な証拠がない。アウト。 - 「ちょっと遅刻や欠勤が多い」
👉 体調不良や正当な理由がある場合、会社が適切な「指導」や「改善のチャンス」を与えていなければ一発アウト。
つまり、「ちょっと使ってみて、気に入らないからチェンジ」という魔法は、昭和48年の最高裁判例の時点で完全に粉砕されているのです。
第3章:なぜ「14日」を超えると地獄のカウントダウンが始まるのか?
さらに、労働基準法には経営者が震え上がる「14日の罠」というタイムリミットが存在します(労働基準法21条)。
試用期間が始まってから「13日以内」であれば、万が一解雇する場合でも、即日クビにすることが可能です。しかし、「14日(2週間)」を1秒でも超えて雇用していた場合、たとえ試用期間中であっても、通常の解雇と全く同じルールが適用されます。
- 30日前の解雇予告(または30日分の解雇予告手当の支払い)が必須になる
- 前述の「三菱樹脂事件」の超厳格な客観的証拠を求められる
多くの社長が、1ヶ月〜3ヶ月の試用期間の「終わりのタイミング」で本採用拒否を告げますが、その時点ですでに14日を大幅に過ぎているため、手続きの不備も含めてトリプルパンチで一発アウトになるのです。
第4章:問題社員から会社を守る「正しい試用期間」のガバナンス
では、本当に「履歴書は大嘘で、現場の指示を一切無視して暴走する」ような、会社に実害を与える問題社員に当たってしまった場合、経営者はどう防衛すればいいのでしょうか。
行政がぐうの音も出ない、正しい労務管理の手順は3つしかありません。
- 就業規則と契約書への「本採用拒否事由」の明文化
就業規則の試用期間の項目に、「勤務成績が著しく不良なとき」「健康状態が著しく悪化し業務に耐えられないとき」など、具体的な解雇事由をハッキリと書いておく必要があります。テンプレートの使い回しは厳禁です。 - 感情論ではない「客観的な指導記録(証拠)」の蓄積
「アイツはダメだ」ではなく、何月何日にどんなミスをし、会社としてどう指導し、本人がどう改善しなかったのかを、日報や面談記録(証拠)として1ミリの狂いもなく残してください。元Gメンの私から言わせれば、行政の調査で勝てるのは「感情」ではなく「文字として残された証拠」だけです。 - 特定社労士(紛争解決のプロ)による事前のスキーム構築
揉めそうな気配を察知した時点で、解雇を言い渡す前に、ステップを踏んだ「合意退職勧奨」のシナリオを専門家と一緒に組み立てることです。
終わりに:トラブルのゴングが鳴る前にご相談ください
行政の現場で数々の「ガサ入れ(調査・徴税)」を指揮してきた私だからこそ、断言できます。 労働局や労基署といった国の組織は、経営者の「会社の資金繰りが苦しい」「社員が言うことを聞かない」という現場の涙には、1ミリも忖度してくれません。彼らが見るのは、過去の最高裁判例という絶対的な物差しと、貴社が残した書類の不備だけです。
「今いる試用期間中の社員を、来月辞めさせたいけれど大丈夫か?」
「ウチの就業規則の試用期間の規定、行政に突っ込まれたら一発アウトにならないか?」
少しでも不安がよぎったなら、トラブルのゴングが鳴って数百万の違約金を支払う羽目になる前に、今すぐ当オフィスにご連絡ください。
「社会保険労務士オフィス LIFE ONE」では、個別労働紛争のド真ん中のロジックを熟知したプロとして、貴社の就業規則や雇用契約書のバグを徹底的にデバッグし、問題社員からの不当な請求や行政調査から会社を守る「最強の防波堤」を構築します。
経営者が安心して本業の売上拡大に集中できる環境を、私たちがガチガチのリーガルマインドでサポートします。

コメント