台風、大雪、地震、洪水などの自然災害が発生した際、会社から「明日は危険だから会社を休みにする。各自、有給休暇を消化しておくように」と指示された経験はないでしょうか。
結論から申し上げます。会社が従業員に対して、一方的に有給休暇の取得を強制することは労働基準法違反(違法)です。
しかし、実務上では「有給を使わないなら欠勤扱いで無給になる」と迫られ、泣く泣く有給を消化してしまうケースが後を絶ちません。
本記事では、社会保険労務士資格者の視点から、台風、大雨時の「有給強制」が違法となる法的根拠、給与が保証される「休業手当」の条件、そして不当な扱いに遭った際の具体的な対処法までを詳細かつ簡潔に解説します。
1. 台風や大雨で会社から「有給を使え」と強制されたら違法か?
1-1. 大原則:有給休暇の「時季指定権」は労働者にある
労働基準法第39条5項では、有給休暇は「労働者の請求する時季に与えなければならない」と明確に定められています。この権利を「時季指定権」と呼びます。
つまり、「いつ有給を使うか」を決定する権利は100%労働者側にあります。会社側が「明日を休業とするから有給にしろ」と一方的に指定し、労働者の同意なしに消化させることは法的に認められていません。
1-2. 会社からの指示は「強制」か「奨励」かで違法性が変わる
実務上、違法か適法かの分水嶺となるのは、会社からのアナウンスの「性質」です。
- 【違法となるケース(強制)】
- 「明日は休業とする。全社員、有給休暇を消化すること(業務命令)」
- 「有給を使わないとペナルティ(評価を下げる等)がある」
- 事後になって勝手に有給消化扱いで処理されていた
- 【適法となるケース(奨励・提案)】
- 「明日は休業(または出社困難)となるため、希望者は有給休暇を取得しても構いません。取得しない場合は無給(または休業手当支給)となります」と提案し、労働者が自由意志で有給申請を行った場合。
1-3. 例外:適法となる「計画的付与」とは
唯一、会社が主導して有給消化日を決められる制度として「年次有給休暇の計画的付与(労基法第39条6項)」があります。 しかしこれは、あらかじめ労使協定を結び、年間カレンダー等で計画的に有給消化日を定めておく制度です。「明日、台風が来るから計画的付与を適用する」といった直前の突発的な指定は不可能であり、無効となります。
2. 「有給を使わない」と給料はどうなる?(休業手当と無給の境界線)
労働者が「有給は使いません」と主張した場合、その休業日の給料(賃金)がどうなるかは、「休業の原因がどこにあるか」によって以下の2パターンに分かれます。
2-1. 【無給になるケース】不可抗力(天災地変)と判断される場合
台風、大雨による被害が甚大であり、会社側がどう努力しても事業を稼働させることが不可能な場合、法律上は「不可抗力」として扱われます。この場合、ノーワーク・ノーペイの原則が適用され、会社に賃金や休業手当の支払い義務は生じません(無給)。
【不可抗力と認められる基準(2要件)】
- 原因が事業の外部より発生した事故であること
- 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること
(具体例)
- 事業所自体が浸水・損壊し、物理的に業務ができない。
- 地域の公共交通機関(電車・バス等)が始発から全面的に運休し、代替手段を含めて全従業員が出社不可能となった。
2-2. 【休業手当が出るケース】会社都合の休業と判断される場合
台風が接近しているものの、上記のような「絶対的な不可抗力」とまでは言えない状況下で、会社が自主的・予防的に休業を決定した場合です。 この場合、労働基準法第26条に基づく「使用者の責に帰すべき事由による休業」となり、会社は従業員に対して平均賃金の6割以上の「休業手当」を支払う義務があります。
(具体例)
- 電車は遅延しつつも動いており出社可能だが、安全配慮の観点から会社が「出社禁止・自宅待機」を命じた。
- 一部の交通機関は止まっているが、タクシーや徒歩、別ルート等で出社できる従業員に対しても一斉休業を命じた。
3. テレワーク(在宅勤務)が可能な場合の扱いは?
近年急増しているのが、テレワーク環境下でのトラブルです。 もし従業員が「テレワーク用のPCを持っており、自宅で通常通り業務が可能」であるにもかかわらず、会社が「全社一斉休業だから有給を使え(または休業手当6割にする)」と指示した場合はどうなるでしょうか。
結論として、労働者が労務を提供できる(テレワーク可能)状態にあるのに会社が業務を拒否したことになり、民法第536条2項(債権者の責めに帰すべき事由)が適用される可能性が高くなります。 この場合、休業手当(6割)ではなく、賃金の全額(100%)を請求できる余地があります。テレワーク環境が整っている企業は、安易な一斉休業指示に注意が必要です。
4. 【ケース別】台風時の給与・有給トラブルQ&A
よくある実務上のトラブルについて、一問一答形式で整理します。
Q1. 出勤途中に電車が止まり、数時間遅刻しました。遅刻分を勝手に有給(半休)扱いにされましたが違法ですか?
A. 違法です。 遅刻した時間分を無給(賃金カット)にすることは適法ですが、労働者の同意なく勝手に有給休暇や半休に振り替えることは時季指定権の侵害(労基法違反)となります。
Q2. 会社から「有給を使うか、欠勤(無給)にするか選べ」と言われました。これは違法ですか?
A. 休業の理由(不可抗力か否か)によります。 もし公共交通機関が全滅しており完全に「不可抗力(無給)」となる日であれば、会社が「無給になるよりは有給を使って100%の給与を得る選択肢もあるよ」と提案すること自体は適法(奨励)です。しかし、本来「休業手当(6割)」が出るべき状況(会社都合の休業)なのに、その事実を隠して「有給か無給か」の2択しか提示しない場合は、悪質な法逃れと言えます。
Q3. アルバイトやパートタイム労働者でも、台風時の休業手当はもらえますか?
A. もらえます。 社会保険労務士有資格者として日々多くの相談を受けますが、労働基準法の休業手当(第26条)は、正社員だけでなく、アルバイト、パート、契約社員などすべての労働者に適用されます。シフトが確定していた日に会社都合で休業となった場合、平均賃金の6割以上の休業手当が支給されなければなりません。
5. 会社とトラブルになりそうな時の具体的アクション(自衛策)
もし会社から違法な有給強制や、不当な無給扱いを受けた場合は、社労士の立場からも、泣き寝入りせずに以下の手順で証拠を保全することを強く推奨します。
- 指示の証拠(客観的記録)を残す
口頭での指示は「言った・言わない」の争いになります。会社からの「有給消化の業務命令」や「自宅待機指示」を、メール、社内チャット、LINEのスクリーンショットなどで確実に保存してください。 - 就業規則の「災害時の規定」を確認する
まともな企業であれば、就業規則に「非常災害時の休業および賃金の取り扱い」が明記されています。まずは自社のルールが法律に則っているかを確認します。 - 労働基準監督署(労基署)への相談
会社側が明らかに違法な処理(勝手な有給消化、支払われるべき休業手当の未払い)を強行した場合、証拠を持って管轄の労基署へ「申告」を行うことで、行政指導が入る可能性があります。
まとめ:正しい知識で自分の権利と給料を守ろう
台風、大雨時の給与や有給の扱いは、以下の3つのポイントに集約されます。
- 会社が一方的に有給消化を強制するのは違法(同意があれば適法)。
- 完全に交通手段が絶たれた絶対的な天災(不可抗力)の場合は無給。
- 会社が安全のために自主的に休業を決めた場合は休業手当(6割以上)が発生する。
「有給休暇」は労働者に与えられた大切な権利です。自然災害という非常時だからこそ、会社の曖昧な指示に流されることなく、労働法に基づく正しい知識で自分自身の権利と生活を守りましょう。

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