「あいつ、最近やる気もないし、他の社員にも悪影響だから、明日からもう来なくていいよ」
社長の集まりや、経営者からの緊急の電話相談で、最も頻繁に耳にするセリフの一つがこれです。社長からすれば、自分の会社で、自分が給料を払っている従業員なのだから、組織の規律を乱す人間を自分の権限(鶴の一声)でいつでもクビにできる、そう考えてしまうのも無理はありません。
映画やドラマでも、ワンマン社長が「お前はクビだ!」と言い放つシーンがよく描かれます。
しかし、元徴収官として数々の組織の裏側のデータ(ファクト)を暴き、現在は社労士有資格者としてリアルな労務問題の最前線で地雷を処理している私から言わせれば、この感情任せの「一発解雇」は、経営者が自ら会社のタイムカプセルにダイナマイトを仕掛けて自爆ボタンを押すようなものです。
結論から申し上げます。
「ルールなき解雇は、ただの自爆テロです」
日本の労働法において、「解雇」がいかに経営側の致命的なリスク(地雷)であるか。そして、社長のその一言が、後から「数百万円の和解金(キャッシュ)」という名の請求書に姿を変えて会社を即死させる冷徹な仕組みについて、徹底的に仕分け(ガサ入れ)していきたいと思います。
1. 日本の労働法における「解雇」は、社長が思っている100倍ハードモードである
まず、中小企業の社長が最も勘違いしている労働法のバグ(認識不足)から是正しましょう。
「30日前までに予告するか、30日分の解雇予告手当(1ヶ月分の給料)を払えば、誰でも合法的にクビにできる」と思い込んでいませんか?
ハッキリ言いますが、それは大いなる勘違いです。30日前の予告というのは、あくまで「解雇の手続き上の最低限のルール」に過ぎません。その手続きをクリアした上で、さらに日本の法律(労働契約法第16条)は、経営者に対してエベレスト並みに高いハードルを突きつけています。
それが、「解雇権濫用の法理(ほうり)」です。
法律の条文には、こう書かれています。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」
これを分かりやすく翻訳すると、こうなります。
「誰が見ても『これはクビにされても仕方がないよね』と100%納得するレベルの、よほどの重大な裏切り行為や犯罪でもない限り、会社側から一方的に契約を打ち切ることは絶対に認めない」ということです。
社長がよく理由に挙げる「態度が悪い」「指示に従わない」「協調性がない」「能力が足りない」といった理由は、客観的に合理的な理由としては、裁判所からすれば「1ミリも認められない」ケースがほとんどです。「態度が悪いなら、会社としてどうやって指導したのか?」「能力が足りないなら、配置転換や教育の機会を与えたのか?」と、すべて会社側の管理責任(バグ)として突き返されるのがオチです。
2. 感情任せの「一発解雇」が、会社のキャッシュを焼き尽くす「不都合な真実」
では、社長が感情に任せて「明日から来なくていい!」と一発解雇をブチかました後、裏側でどのような恐怖のシナリオ(ファクト)が動き出すのか。その生々しい流れをガサ入れしてみましょう。
クビを言い渡された社員は、その足で何をするか。今の時代、スマホで検索すれば「不当解雇の勝ち方」など一瞬で出てきます。彼らは地元の合同労組(ユニオン)に駆け込むか、弁護士をハントして、会社宛てに一本の「内容証明郵便」を送りつけてきます。
そこに書かれている内容は、大体決まっています。
「今回の解雇は客観的合理的な理由がなく無効である。よって、私は今でも貴社の従業員としての地位を有している(労働者地位確認)。ついては、解雇を言い渡された日から現在に至るまでの、働けなかった期間の給料を全額遡って支払いなさい(バックペイ)」
ここが「不当解雇」の最も恐ろしいバグです。
解雇が無効と判断された場合、社員が「会社に来ていなかった期間」の給料を、会社は1円の漏れもなく100%全額、遡って払わなければなりません。なぜなら、「働かなかったのは、お前が『来るな』と言って不当に就労を拒否したから(会社側の都合)」と判断されるからです。
仮に、裁判や労働審判が長引き、解決までに1年かかったとします。その社員の月給が30万円だった場合、
月給30万円 × 12ヶ月 = 360万円
会社は、「1ミリも自社に貢献していない、むしろ憎み合っている人間に、ただ時間が経過したという理由だけで360万円のキャッシュをノーガードで毟り取られる」ことになるのです。
中小企業にとって、生金(キャッシュ)で数百万円が一瞬で消し飛ぶという地雷がどれほど致命的か、電卓を叩けば一瞬で分かりますよね。社長の「明日から来なくていい」という1秒の感情の爆発の代償は、あまりにも重すぎるのです。
3. 「態度が悪い社員」を合法的に排除するための、鉄壁のバックオフィス構築
「じゃあ先生、うちの会社でサボったり、周りのバイブスを下げまくったりしている問題社員を、社長は一生我慢して雇い続けなきゃいけないのか!?」
もちろん、そんなことはありません。会社はボランティア団体ではないのですから、組織を腐らせるガン細胞は排除しなければなりません。ただし、そこには「感情」ではなく「鉄壁の仕組み(プロセス)」が必要です。
社労士有資格者として、問題社員をノーリスクでハント(退場)させるための3つのステップを仕分けします。
① 「就業規則」という名の要塞のルールを完璧にする
あなたの会社の就業規則の「懲戒規定」や「解雇事由」は、10年前のひな形のまま放置されていませんか?「どんな行為をしたら、どんな処分(けん責・減給・出勤停止・懲戒解雇)になるのか」が明確に明文化されていない状態での処分は、すべて会社側のルール違反(バグ)になります。まずはハコ(ルール)のガサ入れが最優先です。
② 「客観的な指導のファクト(証拠)」を泥臭く積み上げる
「口頭で注意した」は、裁判では1ミリも証拠になりません。「○月○日、〇〇の業務における遅刻に対し、指導書(書面)を手渡して改善を促した。本人のサインを受領した」という、言い逃れのできない客観的な事実(ログ)を何度も積み重ねる必要があります。会社はできる限りの教育と指導を尽くした、それでも本人が改善しなかった、という「プロセス」があって初めて、解雇の刀を抜く権利が得られます。
③ 「解雇」ではなく「退職勧奨(合意退職)」のディールに持ち込む
会社から一方的に首をハネる「解雇」は、100%揉めます。そうではなく、積み上げた証拠の書類を会議室で本人の前に並べ、「これだけ指導しても改善が見られない。お互いにとって、別の道を探した方が幸せじゃないか?」と、会社都合の「合意退職」に導く話し合い(ディール)を行います。数ヶ月分の解決金(退職金)を上乗せしてでも、「お互いに納得して、二度と会社を訴えません」という合意書(合意書面)を締結する方が、後からの訴訟地雷を踏むより遥かに安上がりで安全です。
4. まとめ:感情で経営をするな、仕組みで会社を守れ
「あいつが気に入らないからクビにする」
そんな経営者の「気分の王様」のような振る舞いは、現代の労働法という冷徹なリアルの前には一瞬で叩き潰されます。
これからの時代、バックオフィス(労務環境)がガバガバな会社は、外部のユニオンや弁護士にとって「格好のハント対象(カモ)」です。社長の不用意な一言が、会社の銀行口座から数百万円の血を流させる致命傷になる。その事実を、今一度脳内に叩き込んでください。
あなたの会社は、問題社員に対して感情的に怒鳴り散らすだけで、言い逃れのできない「指導のログ(証拠)」を残す仕組みが構築されていますか?
手遅れになってから「先生、助けてくれ!」と駆け込んでこられても、魔法のように地雷を消すことはできません。そうなる前に、自社の就業規則と、日々のバックオフィスの管理体制を今すぐガサ入れしましょう。
経営者の仕事は、感情を爆発させることではありません。優秀な社員を守り、問題社員をルールに基づいて静かに退場させる「強固な要塞(仕組み)」を作ることです。
何か事が起こる前に、対策しておくことが重要です。

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