【安全衛生・現場】「医師の面接指導」を拒否する社員をどうする?会社の安全配慮義務違反を防ぐ危機管理実務

人事労務や経営者の方から、現場でよくご相談いただくのが次の問題です。

「月80時間以上の残業をしている社員に『医師の面接指導』を受けるよう案内したが、『忙しい』『精神病扱いされたくない』と言って拒否された。本人が拒否している以上、放っておくしかないのでは?」

結論から申し上げます。「本人が拒否したから」と言って放置することは、企業にとって致命的なリスクになります。

万が一、その社員が脳・心臓疾患を発症したり、メンタル不調から自死等の事態に陥ったりした場合、裁判所は「本人の拒否」を免責理由として認めず、会社に数千万円〜億単位の損害賠償責任(安全配慮義務違反)を課すケースがほとんどです。

本記事では、面接指導拒否問題における裁判例のロジックと、会社を守るための具体的な実務対応ステップを解説します。

目次

1. 法律上のルールと「本人が拒否する」理由

労働安全衛生法(第66条の8)により、一定の要件(例:時間外・休日労働が月80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者等)を満たした労働者に対し、会社は医師による面接指導を実施する義務を負っています。

しかし、現場では以下のような理由で労働者が面接を拒否するケースが多発します。

  • 人事評価への悪影響を恐れている(「メンタルに問題があると思われるのでは」という懸念)
  • 単に忙しくて時間を取られたくない
  • 産業医や会社に対する不信感がある

ここで会社が陥りやすい罠が、「面接指導は労働者からの申し出に基づいて行うものだから、本人が申し出ない(拒否する)なら会社に落ち度はない」という誤解です。

2. 裁判例が示す「会社の安全配慮義務」の重さ

裁判例において、企業の安全配慮義務(労働契約法第5条)は極めて高度に要求されます。

最高裁の考え方は一貫しており、「労働者が自ら健康管理を行わない場合であっても、使用者は労働者の生命・身体の安全を確保するよう配慮すべき義務を負う」とされています。

つまり、ただ「面接指導を受けますか?」と聞き、相手が「いいえ」と答えたからといって引き下がっただけでは、「会社は適切な手立てを尽くしていなかった(安全配慮義務の履行を怠った)」と判定されてしまうのです。

3. 拒否された時に会社が取るべき「4段階の危機管理ステップ」

では、面接指導を拒否する社員に対し、会社はどのように対応すべきなのでしょうか。以下のステップで「会社としての手立て」を講じた履歴を残す必要があります。

ステップ①:面接指導の目的とプライバシー保護の再周知

「評価を下げるためのものではなく、あなたの健康と命を守るための手続きであること」「診察内容は厳重にプライバシーが守られること」を口頭および書面で改めて説明します。

ステップ②:主治医(かかりつけ医)や外部医師の選択肢提示

「会社の産業医に会いたくない」という拒否理由の場合、本人の主治医や外部の医療機関での受診を認め、その結果(診断書や意見書)を提出させる代替案を提示します。

ステップ③:「受診勧奨通知書(書面)」の交付と受領印の受領

口頭での催告にとどめず、必ず「書面」で面接指導を受けるよう正式に通知します。その際、受領した旨の署名・捺印をもらうか、手渡しが難しければメール・特定記録郵便等で送付履歴を確実に残します。

ステップ④:業務量の強制的な削減(就業上の措置)

それでも本人が面接指導を拒否し続ける場合、会社は面接結果を待たずに「職権による残業禁止命令」や「業務量の削減」を断行します。健康リスクが高いことが客観的な勤務時間から明らかな以上、指示に従わないからといって過重労働を放置することは許されません。

4. 現場で使える「面接指導受診勧奨通知書」の文例

実務上、ステップ③で手渡す書面の記載例です。

【記載例】面接指導の受診について(通知)

〇〇 〇〇 殿

株式会社〇〇〇〇

代表取締役 〇〇 〇〇

貴殿の直近1ヶ月間における時間外・休日労働時間は〇時間を超えており、労働安全衛生法および当社の就業規則に基づき、医師による面接指導の対象となっております。

過重労働による健康障害を防止し、貴殿の安全と健康を確保するため、下記のとおり医師による面接指導の受診を強く推奨いたします。

  1. 日時: 2026年〇月〇日 〇時〇分〜
  2. 場所: 当社相談室(または〇〇クリニック)
  3. 担当医師: 産業医 〇〇 〇〇 医師

※本面接指導で得られた健康情報は、健康管理の目的以外に使用されることはなく、人事評価等において不利益な扱いを受けることは一切ありません。

※本受診を辞退される場合は、理由を記載の上、本紙を人事部までご提出ください。ただし、辞退された場合であっても、会社の安全配慮義務に基づき、時間外労働の制限等の措置をとる場合があります。

上記内容を確認し、受領いたしました。

( 受診を希望します ・ 受診を希望しません[理由:      ])

氏名:      印

まとめ:証拠を残し、最後は「労働時間を物理的に削る」

高ストレスや長時間労働に陥っている社員は、正常な判断力が低下しており、自ら「大丈夫です」と拒否してしまう傾向が多々あります。

だからこそ、会社側は「本人の意思」に甘えることなく、①書面による受診勧奨の履歴を残すこと、そして②最終的には物理的に残業を止める措置をとることの2点を徹底しなければなりません。

社員の健康を守り、同時に企業の法的リスクを防ぐためにも、拒否された際の実務フローを今一度見直しておきましょう。

元Gメン×労務のプロによる『労務リスク・安全衛生体制の事前点検』

当サイトでは、過重労働対策や安全衛生体制の不備、各種規程のバグを事前に洗い出す『労務リスク事前診断』を行っています。

「面接指導を拒否する社員の対応に困っている」「自社の安全衛生管理が法的に適切か確認したい」という経営者・人事担当者様は、リスクが顕在化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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